三価や五価の超原子価ヨウ素化合物は特異な酸化剤として、有機合成化学に多用されている。ところが不思議なことに、触媒量の超原子価ヨウ素化合物を活用する触媒的酸化反応はこれまで全く検討されていない。三価の超原子価ヨウ素化合物を用いる酸化反応では、常に一価のPhIが量論的に副生してしまい、これは廃棄されることになる。反応終了後にヨードベンゼンを回収・単離して再酸化すれば再び超原子価ヨウ素化合物を得ることができるが、その単離は煩雑であり、効率も良くない。我々は反応中に生成したPhIを反応系中で再び酸化して三価の超原子価ヨウ素化合物を再生させ、これを更に酸化反応に利用することを計画した。 超原子価ヨウ素化合物を活用する触媒的酸化反応として、カルボニル化合物のα位アセトキシ化反応を開発することができた。ヨウ素化合物としてはPhIを使用し、末端酸化剤としてメタクロロ過安息香酸を利用すると、カルボニル化合物のα位にアセトキシ基を効率良く導入できることを見出した。この反応では末端酸化剤であるメタクロロ過安息香酸から化学量論量のメタクロロ安息香酸が生成してしまう。そこでこのような無駄をさけるために、一価のヨードベンゼンを緩和な条件下に三価のヨウ素化合物に酸化する新しい末端酸化剤として、A)酢酸中Lewis酸やプロトン酸を適宜加えて過酸化水素を活性化し、緩和な条件下に三価のヨウ素化合物に酸化する反応、B)ペルオキソホウ酸ナトリウムや過ヨウ素酸アンモニウム等の酸化剤を用いて、Lewis酸やプロトン酸の添加効果により活性化させ、緩和な条件下に三価のヨウ素化合物に酸化する反応を検討したが、メタクロロ過安息香酸を凌ぐ結果は得られなかった。 現在、三価の超原子価ヨウ素化合物を酸化剤とするオレフィンの触媒的酸化反応が効率良く進行することを見出しつつある。オレフィンの酸化的切断反応は極めて重要な素反応であるが、現在のところ環境に調和する効率良い反応は開発されていない。従って、今回の我々の発見はその今後の発展に大きな期待が持たれる。
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