本研究の目的 遺伝情報分子(DNAおよびRNA)に配列特異的に結合する分子は、ゲノム機能解析に重要なツールとなるばかりでなく、治療薬としての発展性を秘めているため、最近とくに注目されている。高次構造のDNAあるいはRNAに対して特異的に結合する分子は、論理的な分子設計が困難なため、本研究では、動的コンビナトリアル化学の手法を適応した新しい検索法を検討することにした。この手法では平衡に達している系に標的分子を入れ錯体形成によって平衡を移動させ、自動的に選択的結合分子を得ようとするものである。一般のコンビナトリアル化学に比べて、候補化合物をあらかじめ合成する必要がない利点があるものの、反応系が極めて複雑になる欠点がある。本研究課題ではDNA高次構造を認識する低分子の開発を目的に、チオール-ジスルフィド平衡反応を活用した効率的検索を検討する。またそのほか水溶性触媒によるメタセシス反応を利用した動的コンビナトリアル化学についても検討する。 平成18年度の研究成果 合成:ダイナミックコンビケム検索手法を確立するためにDNA結合ユニットとしてA3T3領域に選択的な結合能を有するHoechst33258骨格を採用した。さらにスペーサーを導入する位置として結合特性に影響を与えない位置としてマイナーグルーブ接触面と反対側にカルボキシル基を介してポリエチレングリコールスペーサーを導入した。 ダイナミックコンビナトリアル化学:ダイナミックコンビナトリアル化学による検索システムを構築するため、ヘキストチオールとグルタチオンを成分とする平衡反応を検討した。その結果、平衡系が成立することを確認した。その後、ヘキストの結合部位を有する2本鎖DNAを平衡系に加えることによってこの平衡が大きく移動し、ヘテロダイマー(Ht-S-SG)濃度が上昇することが観測された。対応する化合物を合成し結合親和性を評価したところ、明らかに強い親和性のリガンドが増幅されてくることが確認された。平成18年度はさらに種々の長さのスペーサーのヘキストリガンドを合成した。また、グルタチオン以外のペプチドなどのチオール化合物を用いて、平衡状態のシフトを検討したが、グルタチオン以外に平衡状態をシフトさせるペプチドを見出すことができなかった。さらに、チオール-スルフィド平衡反応以外のダイナミックコンビナトリアル化学としてメタセシス反応およびクリック化学を検討した。
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