女性の妊娠期の飲酒により生まれてくる子供の神経発達障害が引き起こされる胎児性アルコール症候群(FAS)は社会問題にまで発展しており、その発症メカニズムの解明と治療開発が強く望まれている。胎児期の中枢神経細胞はアルコールに対して敏感であり、エタノールによる中枢神経細胞のアポトーシス誘導が中枢神経障害の主要原因として注目されているが、その分子メカニズムは不明である。ホスホリパーゼD(PLD)は、細胞膜ホスファチジルコリンのホスファチジル基をエタノールの一級水酸基に転移する結果、通常生体内には存在しないリン脂質「ホスファチジルエタノール(PEt)」を産生するという性質を有している。このことから、女性が妊娠期にアルコールを過剰に摂取すると胎児の神経細胞にアルコールが浸透して、細胞内のPLDによって細胞の膜系でPEtが異常蓄積し、それが原因となってアポトーシスが誘導されることが想定される。そこで本研究では、「エタノールによる神経細胞のアポトーシス誘導にPLDが密接に関わっているかどうかを明らかにする」ことを目的として解析し、以下の結果を得た。 マウス小脳顆粒細胞をエタノール存在下で培養すると、アポトーシスの亢進と同時にPETの蓄積が観察された合成したPEtをマウス小脳顆粒細胞に作用させると、小脳顆粒細胞のアポトーシスの亢進が認められた。さらに、PEtを作用させた小脳顆粒細胞においては、カスパーゼ3の活性化が認められた。 エタノールによる神経細胞のアポトーシスの亢進において、今まで同定されているPLD1とPLD2のアイソザイムのうち、どちらのPLDアイソザイムが関与しているかを解析するため、PLD1とPLD2のそれぞれのアイソザイムを誘導発現できるPC12細胞を用い七解析したところ、PLD2を誘導発現したPC12細胞において、エタノールによるアポトーシスが顕著に亢進した。
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