アミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積はアルツハイマー病脳で観察される様々な病理変化の最上流に位置し、進行的な神経細胞の機能障害と脱落の引き金になる。脳内Aβの分解にはネプリライシン(NEP)が主要な働きをするが、これまでの研究によってネプリライシンの活性が低下された時に機能する第二のプロテアーゼとしてアミノペプチダーゼ(APA)が関与する可能性が考えられた。APAはペプチドのアミノ末端のアスパラギン酸やグルタミン酸残基の切断を行うプロテアーゼであり、in vitroでAPAがAβ分解活性を有することを確認している。1)APAは脳内NEPと協調的に働いて効率よくAβを分解するか、逆に2)AD脳の主要蓄積型Aβ、Aβ3pyroE-42の産生へ関与し、AD病理を加速するように機能することが推定された。今年度までに得られた結果は下記の通りである。(1)APA単独の欠損マウス(若週齢)では脳内Aβの総量の変化は認められなかったが、NEPおよびAPA二重欠損マウス(若週齢)では、NEP単独の欠損マウスに比較し可溶性画分のAβ量が低下することを見出した。但し、不溶性画分のAβ量は変化していなかった。(2)NEPおよびAPA二重欠損マウス脳に存在するAβのN末端解析を行うため、このマウスにAPP tgマウスをさらに交配させた。若週齢(9週)マウスから脳を摘出し、ELISAおよびウエスタンブロットによりAβのN末端の構造解析(N末端インタクト型および3pyroE型)を行ったが、APAの単独欠損型、NEP単独欠損型および両者に対する野生型に比較して顕著な変化は見られず、Aβの総量についても顕著な差異は検出されなかった。加齢に伴うAβの蓄積速度やN末端の構造変化について検討するため、現在、24ヶ月齢のこれらのマウスから脳を摘出し、生化学解析用の凍結脳、組織化学解析用のパラフィン切片を調製している。
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