フルオレッセインイソチオシアネート(FITC)をハプテンとするマウス接触性皮膚炎モデルでは、フタル酸ジブチル(DBP)をはじめとするある種のフタル酸エステルにアジュバント活性があり、FITCに対する経皮感作を促進することを明らかにしてきた。さらに、侵害刺激受容チャネルTRPファミリーの一つTRPV1のアゴニストのカプサイシンや、TRPA1のアゴニストのアリルイソチオシアネート(AITC)で皮膚の知覚神経をあらかじめ脱感作すると、FITCに対するDBPのアジュバント活性が失われることを示してきた。そこでDBPのアジュバント活性にTRPチャネルの刺激が関与している可能性を検討することとした。昨年度の成果より、DBPがTRPV1を活性化することが明らかとなったが、今回はTRPA1について主として検討をすすめた。マウスの後根神経節から分離した神経細胞を細胞内カルシウム蛍光指示薬であるFluo4で標識し、共焦点レーザー走査顕微鏡にて個々の細胞のカルシウム応答を測定した。DBPは14%の細胞にカルシウム応答を誘起した。また、DBPに応答する細胞集団とAITCに応答する細胞集団がほぼ重なっていることが判明した。次に、TRPA1を強制発現させたCHO細胞を用いて、カルシウム応答を測定した。DBPは濃度依存的にカルシウム応答を誘起したが、TRPA1を発現させていないCHO細胞にはカルシウム応答を起こさなかった。DBPがTRPV1のみならずTRPA1のアゴニストとして作用していることが判明した。なお、アジュバント活性のあるフタル酸ジプロピル(DPP)やフタル酸ジエチル(DEP)にも、DBPと同程度のTRPA1刺激活性を認めた。総括すると、フタル酸エステルによる接触感作におけるアジュバント作用機構の一端として、TRPV1およびTRPA1チャネルへの刺激活性を直接明らかにした。
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