シトクロムP450(P450)は、生体に進入した薬物や内分泌かく乱物質などの外来異物を酸化して代謝する酵素である。本研究は、P450のこの反応を有機合成に応用することを目的とする。P450を有機合成反応に利用するための最も大きな問題は、多くの場合有機合成反応は有機溶媒中で行われ、この条件下でタンパク質であるP450は変性してしまい、酵素活性が失われることである。そこで、本研究では好熱菌から熱安定性のP450を単離して、その三次構造安定性を利用して、有機溶媒中で安定な酵素反応系を構築する。好熱菌のP450としては、Sulfolobus solfataricus由来のCYPII9とThermus thermophilus由来のCYP175A1の二種類が知られているが、今回は動物の薬物代謝P450に比較的相同性のあるCYP175A1を単離し、酵素としての性質について検討した。遺伝子を単離して、大腸菌でタンパク質を発現し、まず熱耐性についてSoret帯450nmの吸収で検討した。比較のために用いたラットCYP1A1が50%の残存酵素活性を持つ温度Tm 41℃に対し、CYP175A1はTm83℃であり、熱耐性が確認できた。そこで、この酵素を用いて有機溶媒耐性を検討した。溶媒としてDMSOを用いた場合、CYP1A1は20%で残存活性50%であったが、CYP175A1は70%まで安定であった。酵素活性について、Sulfolobus solfataricusから単離した電子伝達系を用いて代謝活性を検討した。CYP175A1はβ-カロテン水酸化活性を有したが、多くの動物由来のP450基質である7-エトキシクマリンは代謝しなかった。今後、CYP175A1のアミノ酸置換を行い薬物が代謝できる酵素を設計することと、まだ明らかでないCYP175A1の本来の電子伝達系を単離することを行う予定である。
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