in vivo遺伝子治療では治療用遺伝子デリバリーの標的化が不可欠である。私はリガンド・エンベロープ蛋白質(Env)キメラ蛋白質を利用した標的化デリバリー可能なレトロウイルスベクター作製の一般的方法論の確立を目標とし、すでに先駆的な成功例を報告した。本研究においてはマウスエコトロピックレトロウイルスEnvの代わりにポリトロピック(MCF型)レトロウイルスEnvをキメラ蛋白質作成に用い、標的化デリバリーの遺伝子導入タイターの改善を目指した。フレンドMCFウイルスゲノムDNA分子クローンを用いて、SDF-1αリガンドを挿入したキメラEnv発現プラスミド4種と、非キメラ型Env発現プラスミドとを構築した。SDF-1αリガンド(68アミノ酸)はEnv膜表面ユニットの可変領域A内の4か所(アミノ酸83-84、90、95、および99-101)のいずれかに挿入された。53種類のEnvの1つを持ち、E.coli LacZを発現するレトロウイルスベクターの産生にはTELCeB6細胞を用いた。非キメラ型Envを持つベクターはマウスとミンク由来の細胞に遺伝子導入しポリトロピズムを示したが、導入タイターは10^2-10^3 CFU/mlと非常に低レベルでヒト由来細胞(HOSやNP2)には遺伝子導入しなかった。SDF-1αキメラEnv発現プラスミドを用いて得た4種のレトロウイルスベクターはSDF-1αの膜受容体であるCXCR4を過剰発現するHOSやNP2細胞に遺伝子導入しなかった。非キメラ型Env発現プラスミドをTELCeB6細胞に導入し一過性の発現を調べたところ、Env前駆体が検出されるが、その量は期待される量の1/10以下であった。以上より、5種類のEnvは正しく構築されているがTELCeB6細胞内での発現が極めて悪く、標的化遺伝子導入に必要なレベルのキメラEnvを持つウイルスベクターが産生されないと考えられる。
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