アポトーシス能を失って無限に増殖する癌細胞に対して、抗癌剤は癌細胞にアポトーシスを強制的に誘導させるものである。しかし癌細胞はやがて抗癌剤に対して耐性を獲得し、抗癌剤が効かなくなるという致命的な問題がある。本研究では、抗癌剤として広く用いられているプラチナ製剤であるシスプラチンの抗癌性アポトーシス誘導作用の原因と、シスプラチン耐性の原因を調べた。まず第1に、癌細胞KB株にシスプラチンを投与すると容積感受性外向整流性(VSOR)アニオンチャネルの活性が増大し、その後アポトーシス死が誘導されること、そしてこのアポトーシス死誘導はVSORアニオンチャネルのプロッカーで救済されることを明らかにした。第2に、KB細胞のシスプラチン耐性を獲得した亜種KB-CP4細胞では、低浸透圧刺激下でのVSOR C1^-チャネル活性が失われていることを見出した。そして、このKB-CP4細胞をピストン・デアミナーゼ阻害剤(トリコスタチンA:TSA)で処理するとVSOR C1^-チャネル活性を部分的に回復することを発見した。更には、トリスタチンA投与によってVSOR C1^-チャネル活性を回復したKB-CP4細胞においては、AVD発生やカスパーゼ活性化やDNAラダーもシスプラチン投与後に見られるようになり、アポトーシス性の細胞死も誘導されるようになることを明らかにした。以上の結果から、シスプラチンによる癌細胞のアポトーシス誘導にVSORアニオンチャネルの活性化が、シスプラチン耐性の獲得の原因の1つにVSORアニオンチャネル活性の欠失化が関与していることを世界に先駆けて明らかにした。
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