哺乳動物の生物時計は、視床下部視交叉上核(SCN)の中枢時計が全身の末梢時計を統合する多振動体階層機構を形成すると考えられる。哺乳類のサーカディアンシステムが鳥類までと大きく異なる点は、生物時計細胞が直接光を受容できないことである。このため、視覚障害者だけでなく、健常視覚者でも、適切な位相に光照射を受けない状況下では、サーカディアンリズムが24時間の明暗サイクルから脱同調し、睡眠障害をはじめとする様々な不調を生じる。本研究は、生物時計の光受容体であるメラノプシンに注目し、遺伝子導入により末梢時計を直接光感受細胞とし、光照射により体のリズムを整えることが可能かどうかを検討することにある。本年度は、時計遺伝子レポーター細胞を用い、光受容後、細胞内情報伝達を介して時計がリセットされる条件を検討し、光受容時計細胞を構築することを目的として実験を行った。 共同研究者の米国Salk研究所のPanda博士よりマウスメラノプシンcDNAの提供を受け、CMV支配下にメラノプシンを強制発現させると共に、導入細胞の確認のため、IRES配列を介してGFPやRFPなどの蛍光蛋白を発現するメラノプシン導入ベクターの作成を行った。NIH3T3細胞にて、一過性発現を検討したが、当初作成したベクターでは、マーカーであるGFPの蛍光およびウェスタンブロットによるGFP蛋白の確認ができなかったため、再度、IRESを介してメラノプシンとGFPを発現するベクターおよびメラノプシンGFP融合蛋白配列の強制発現ベクターを作成した。現在、一過性発現および安定発現株を作成し、蛍光による導入細胞を確かめると同時にメラノプシンのみの強制発現ベクターとYellow Cameleonのco・transfectionによるカルシウム上昇を発光の指標として検討中である。
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