肝臓の前癌ならびに癌病変において、セリン/スレオニン・キナーゼ活性を保有するPim-3の発現が亢進していて、アポトーシスを抑制することで癌化に関与している可能性を我々は報告している。本年度、肝臓以外の内胚葉由来臓器である大腸・膵臓のヒトの前癌ならびに癌病変でのPim-3の発現を免疫染色法にて検討した。その結果ご大腸では腺癌の存在しない正常粘膜ではPim-3が検出されないのに対して、腺癌病変周囲の正常粘膜の約20%、アデノーマの約90%、腺癌病変の約55%で、Pim-3タンパクが検出された。膵癌組織では検討した10例全例でPim-3タンパクが検出された。検討したヒト膵癌細胞株全てにおいて、 Pim-3の恒常的な発現が認められ、RNA干渉法によってPim-3発現を抑制すると、subG1期に属する細胞とアネキシンV陽性の細胞が増加することより、アポトーシスが誘導されたと考えられた。ヒト膵癌細胞株では、Pim-3と好アポトーシス分子であるBadが共局在していることが、二重免疫染色法・免疫沈降法より明らかとなった。膵癌細胞株では、Badの112番目のセリン残基がリン酸化された不活型として存在していたが、Pim-3の発現をRNA干渉法にて抑制すると、このリン酸化が減弱するとともに、抗アポトーシス分子であるBcl-XLの発現が増強した。さらに、 Pim-3遺伝子をヒト膵癌細胞株に一過性に発現させると、Badの112番目のセリン残基のリン酸化が増強された。ヒト大腸癌細胞株を用いた検討でも、同様の結果を得られた。したがって、Pim-3はBadの112番目のセリン残基のリン酸化によってBadの不活化を起こすとともに、Bcl-XLの発現を誘導し、アポトーシスを抑制することによって、これらの臓器でのがん化に関与していることが明らかとなった。Pim-3がBadの112番目のセリン残基を選択的にリン酸化することに基づく、Pim-3の試験管内での活性測定法を確立し、Pim-3の阻害剤のスクリーニングに着手している。
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