血管内皮細胞は血管平滑筋の収縮や増殖に影響を与える種々の生理活性物質を分泌している。一般に平滑筋細胞の収縮弛緩能は培養によって失われるが、コラーゲンゲルに包埋培養すると収縮能を回復する。我々は、内皮細胞を平滑筋包埋ゲルの上に重層すると、アゴニスト刺激に対するゲルの収縮が著明に増大し、この時ゲル内の平滑筋細胞は伸長して相互に結合する傾向を示すことを見出した。これらの作用は内皮細胞の培養上清によっても同様に得られたことから、内皮細胞が分泌する何らかの物質の新規活性である可能性が示唆された。本研究は、この新規活性をもたらす物質を同定することを目的とした。本年度の研究により、血管内皮細胞の培養上清から活性分画の分離に成功した。ウシ大動脈内皮細胞の培養上清中の蛋白をアセトン沈殿で50倍に濃縮し、これをnative-PAGEでの泳動時間によって分画分取した。各分画を再度濃縮し、これらを平滑筋細胞に投与したところ、ある分画の投与によって、内皮培養上清を投与した場合と同様の平滑筋細胞の長軸方向への伸長と接合を認めた。前年度にはこの活性分画を分取できる再現性が低かったが、本年度この分取方法をプロトコール化することに成功した。我々が得たこの蛋白は、血管平滑筋細胞を相互接合させることで血管構築を形成しそれを維持するという、血管内皮細胞が担う重要な新規機能をもたらす内因性物質である。この蛋白を外因性に投与し、または将来の研究によって内皮における合成分泌機構を解明してこれを刺激することで、血管構築が破綻した動脈硬化血管を再組織化して正常血管に戻すという治療法を開発できる可能性がある。本研究成果は、血管生物学と循環器疾患治療の両立場から今後の拡がりが期待できる重要な意義をもつと考えている。
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