1)生後8週齢から20週齢の成ラットから採取して凍結しておいた脂肪組織由来間質細胞を解凍し、直径100mmのポリスチレン製細胞培養用ディッシュに培養した。白金線電極を固定したディッシュを用いて様々な強度およびパターンの電気刺激を細胞に加えて検討した結果、パルス幅10ms以下の電気刺激の極性を毎回交互に出力することで培養液の電気分解などを引き起こさず、長期間の刺激でも細胞に明らかなダメージを与えないことが確認された。2)コンフルエントに培養した脂肪組織由来間質細胞に対して過去の報告などを参考にパルス幅 5ms、10Hzの電気刺激を24時間連続で与えたのちにTrizo1でRNAを回収した。半定量的RT-PCR法を用いてmRNAの変化を対照群と比較したところBMP2およびBMP4のmRNA発現増加がみられたことから、脂肪組織由来間質細胞においても他の細胞と同様に電気刺激がBMPシグナル伝達系に影響を与えるものと考えられた。3)上記の条件で24時間の電気刺激を行ったのちに2週間以上培養を継続したところ、ディッシュの一部に筋細胞様集団の形成が認められた。しかしながら免疫組織学的検討等の結果、これらの細胞は心筋よりもむしろ骨格筋細胞に近い性質をもつことが推測された。これらの細胞では明らかな拍動は認められなかったが、同じラットより初代培養を行った骨格筋芽細胞からは自発的に収縮するmyotubeの形成が認められた。過去の報告の中には拍動(自発的収縮)を心筋細胞分化のcriteriaとして用いているものが見られるが、これらの報告の一部には骨格筋様細胞の自発的収縮が含まれている可能性が考えられた。4)最近の報告では心筋分化にはBMPシグナル以外の複合的な要因が重要と述べているものもあり、電気刺激に他のサイトカイン等を組み合わせた分化誘導の方法について研究を継続中である。
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