研究概要 |
デコリンはsmall leucine-rich proteoglycan(SLRP)ファミリーに属する細胞外マトリックスタンパク質であり,epidermal growth factor receptor(EGFR)やtransforming growth factor(TGF)-βに結合し,細胞増殖を抑制する。一方で,insulin-like growthfactor-1 receptor(IGF-1R)に結合してアポトーシスを抑制する。従来から機能解析の進んだデコリン中央部分の12回のleucine-richrepeatsに加え,N末端およびC末端領域にはそれぞれシステイン間のジスルフィド結合を有する特徴的な配列が存在する。本研究では,N末端領域のジスルフィド結合が交互に2回表れる構造に注目し,"nose"と名付けた。ヒト(Nh)およびマウス(Nm)の"nose"のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを作成し,細胞増殖に対する影響を検討した。NhとNmはマウス線維芽細胞NIH3T3の増殖を促進する一方で,ヒト食道扁平上皮がん細胞TE-2,T.Tn,ECGI-10やヒト胃がん細胞MKN74等の増殖は抑制した。ヒト子宮扁平上皮がん細胞A431に対しては明確な影響が見られなかった。ウェスタン解析の結果,合成ペプチドにより増殖が促進されたNIH3T3ではIGF-1Rの発現が認められたが,EGFRは見られなかった。一方で,増殖が抑制されたWi-38やHeLa,T.Tn,TE-2,ECGI-10,A549,RERF-LC-AIではIGF-1RとEGFRの発現が共に認められた。細胞増殖に関して影響が認められなかったA431では,EGFRの発現のみが大量に認められた。細胞抽出液に合成ペプチドNhを加えてプルダウンアッセイを行ったところ,合成ペプチドのEGFRに対する結合能はIGF-1Rより高いことが示唆された。これらのことから,合成ペプチドによるEGFRを介した増殖抑制活性は,IGF-1Rを介した増殖促進活性より優位に作用するが,EGFRが過剰発現した場合にはその効果が打ち消されるものと考えられた。
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