これまでの本研究により、亜砒酸(ATO)がChk2キナーゼに加え、p38MAPキナーゼを活性化するとともに、これらのキナーゼを脱リン酸化・不活化するWip1ホスファターゼを阻害することを明らかにしていた。本年度の研究により、まずATOによるChk2、p38MAPキナーゼの活性化が、酸化ストレスによることが明らかとなった。実際、in vitroキナーゼ解析においては、ATOはこれらのキナーゼの活性には影響を与えないが、ATOによる急性前骨髄球性白血病細胞(APL)におけるこれらのキナーゼの活性化は、抗酸化剤により阻害されることが示された。また、リン酸化部位特異的抗p53抗体を用いた解析等から、ATOによりChk2/p53経路及びp38MAPK/p53経路が活性化されることにより、APL細胞のアポトーシスが誘導されることが明らかになった。次に、ATOによるin vitroでのWip1ホスファターゼの活性阻害機構について生化学的解析を行ったところ、ATOによるWip1の活性阻害は非競合的阻害機構によるものであることが示された。さらに、前記のATOによるChk2/p53、p38MAPK経路の活性化を介したAPL細胞のアポトーシスが、Wip1の発現抑制を行うことによりさらに増強されることから、ATOが実際にAPL細胞においてWip1を阻害していることが明らかとなった。以上より、Wip1ホスファターゼが、臨床上ATRA(all trans-retinoic acid)耐性のAPL治療に用いられるATOの直接の標的分子であることが示唆される。
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