研究概要 |
種々の臓器において化生が発癌に関与していること,特に炎症に伴う組織の修復過程で化生が生じた場合,化生上皮あるいはその周囲の組織から高頻度に癌が発生することは良く知られている.また最近,再生医学の進歩により,骨髄由来幹細胞が消化管組織における化生および発癌の現象に深く関与していることが報告され始めでいる.そこで,Green fluorescent protein(GFP)遺伝子を強発現する遺伝子改変マウスより骨髄を採取し,大腸炎症発癌モデルに骨髄移植を行って炎症-化生-発癌における骨髄由来幹細胞の役割を明らかにすることを目的とした.初年度は当初予定していた血管シャントを利用した骨髄幹細胞移植を試みたが,シャント破綻や感染などで移植モデルが不調に終わり,現在最も汎用されている放射線処理したマウスへの移植法に切り替えた.一方で,trinitrobenzene sulfonic acid(TNB),Dimethylhydrazine(DMH),dextran sodium sulfate(DSS)を用いた大腸炎症発癌モデルの確立には成功し,研究成果の一部は学術雑誌Oncol Repに発表した.また,上皮マーカーサイトケラチン,血管・リンパ管マーカーCD34,D2-40および筋細胞マーカー・αSMAの免疫染色に向けた条件設定は終了し,実際のヒト大腸癌でも有用であることを示した(J Gastroenterol Hepatol).現在,GFP遺伝子改変マウスの消化管粘膜,皮膚,骨髄などから系統的に組織を採取し,標本を作製して蛍光顕微鏡下で観察したところ,全ての細胞でGFP蛍光が観察されることが確認され,今後の実験使用に適切なマウスであることは確認できているが,骨髄移植術の手技の安定化が課題となっており,この点が改善された段階で,大規模な実験が展開できると考えられる.
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