ウエルナー症候群(WS)はウエルナーヘリカーゼ遺伝子(WRN)のホモ不全により早老症状を発症する。これまでに、本ヘリカーゼがテロメア構造に存在することが報告されているが、相互作用する分子は確定されていない。また、WSでは平均的人口とは異なる種類の悪性腫瘍(肉腫)が若年で発症してくる臓器特異的発がんの問題は全く不明である。これらをふまえて、私達はWRNがテロメア構造を維持することにより染色体安定化・抗がん化作用をもたらすとの作業仮説をたてた。 私達はコントロール研究として続けてきた非選別剖検症例の解析から、大脳灰白質テロメアは年齢と相関して短縮せず(統計的有意な短縮を認めない)、70歳を超える長寿者は長い灰白質テロメアを有すること、大脳テロメア長と癌死率は負相関を示すことを明らかにした(Experimental Gerontology2007)。また、食道癌組織周囲の粘膜上皮細胞を培養し、Q-FISH法によりテロメア長の有意な短縮と染色体不安定性所見を検出し、癌化の基盤としてテロメア短縮があることを示した(Int.J.Molecul.Med.2007)。 一方、WS患者皮膚組織を収集しSouthern blot法により、患者組織のテロメア長は年齢を校正した健常者皮膚の平均長より短いことを明らかにした。(論文作成中)。また、数年来収集してきたWS由来繊維芽細胞のmetaphaseサンプルに対しサブテロメァプローブを用いたFISH解析を行い、染色体組換えが異常亢進を見出した(正常人由来繊維芽細胞では、同様の方法で組換えは殆ど検出されない)。同時にQ-FISH法により、テロメア長を解析した結果、個人差が大きいこと、正常例に比較して著しい短縮を認め長期継代出来ない例を見出した。検体を増やし、さらなる解析を進めている。本研究によりWSにおけるテロメア領域のダイナミズムの基盤データが拡充された。
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