近年、口腔細菌叢は口腔感染症だけでなく、動脈硬化、誤嚥性肺炎などの全身性疾患の原因にもなっていることが明らかにされており、糖尿病患者は歯周疾患の罹患率が高いことも報告されている。本研究では従来の培養法によらずに、ゲノム情報を利用することで網羅的に微生物群集を解析して、その変動を評価する方法を新たに開発することを開始した。 健常者と歯性感染症患者の計9名の唾液よりそれぞれDNAを抽出し、このDNAをPCR法の鋳型として使用した。PCR法により16SrRNA遺伝子の一部(約580bp)を増幅し、精製・濃縮後に大腸菌にクローニングした。その後、これらの塩基配列を決定し、BLASTを用いて相同性検索を行い、菌種を決定した。一部の実験では歯性感染症患者の排膿液もPCR法に使用した。その際には培養法(好気培養と嫌気培養)も行い、それらの結果を比較した。 (1)健常者と歯性感染症患者の唾液菌叢の比較:健常者群では、歯周病の程度により歯周病菌の占める割合が多くなっており、菌種レベルでは優占菌に個人差が認められた。しかし、属レベルではほぼ同じ菌叢であった。一方、歯性感染症患者の唾液には原因菌と思われる菌種が唾液中に優位に検出され、健常者群とは異なる菌叢になっていた (2)歯性感染症患者の排膿液からの検出菌の培養法と本法による比較:培養法では歯性感染症患者10名の排膿液中5例からしか菌が検出されなかった、もしくは常在菌しか検出されなかった。しかし、本法ではすべての症例で菌が検出され、そのほとんどの症例において、培養法では検出されなかった菌種が優位に検出された。以上の結果より本法は「生きているが培養できない状態の菌(VBNC)」も含めた細菌叢を迅速に把握することが可能であることが示唆された。今後はさらに症例数を増やし、本法の有用性の検討をさらに進めて行くとともに、健常者と高血圧や糖尿病など生活習慣病患者の唾液の菌叢を比較しその関連性を明らかにしていきたい。
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