今年度は健常者の唾液中の菌叢パターンを調査するとともに、歯性感染症患者の治療前後における唾液中の菌叢変化について調査した。基礎疾患がなく口腔内に疾患のない健常者10名(男性5名、女性5名、年齢15歳〜28歳)の唾液を採取し検討した。歯性感染症患者3例に関しては、初診時の唾液と排膿液、ならびに治癒後の唾液を採取した。排膿液については培養法と本法の比較も行った。培養法では羊血液寒天、BTB、チョコレート寒天、ブルセラ半流動培地にそれぞれ接種し37℃、好気および嫌気条件で培養し菌種を同定した。遺伝子解析法は資料から細菌DNAを抽出し、16S ribosomal RNA遺伝子の一部である580bpをPCR法で増幅した。得られたPCR産物を大腸菌にクローニングした後、塩基配列を決定した。決定した配列はBLASTを用いて相同性検索を行い、菌種を同定した。遺伝子解析の結果、健常者の唾液からはStreptococcus属が約60%に検出され、次いでNeisseria属9%、Actinomyces属7%という菌叢パターンであった。一方、歯性感染症患者の初診時の唾液中にはPrevotella属、Peptostreptococcus属が優位に検出された。しかし消炎した後の唾液中では、健常者と同じようにStreptococcus属が優位に検出され健常者と同様の菌叢パターンを示した。培養法でも同様の結果であったが、細菌叢に占める割合は不明であった。本法は従来の培養法では検出困難な菌を含めた口腔細菌叢の網羅的把握が可能であり、唾液を検体として炎症の評価にも活用できると考える。生活習慣病のリスクアセスメント手法として応用できる可能性が示唆された。
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