抗体のクラススイッチと体細胞突然変異に必須の分子であるAIDを欠失させたマウスが強い自己免疫症状を示したため、本研究課題ではAID欠損マウスにおける自己免疫疾患増悪機序を解析することにより、RNA編集酵素であるAIDの欠損が自己免疫感受性を増強するメカニズムを解明することを目的としている。 これまでに免疫抑制受容体PD-1とAIDの二重欠損マウスがBALB/c系統において致死性の心筋炎を発症すること、またI型糖尿病自然発症モデルマウスであるNODマウスに戻し交配したAID欠損マウスがより早期にI型糖尿病を発症することを見出している。さらにB細胞を欠失するマウス(NOD-μMTマウス)との交配実験においても、AID欠損は糖尿病を悪化したことから、従来知られているB細胞以外においてAIDが機能している可能性が示唆された。そこで平成18年度に、AIDが膵β細胞において発現し、自己抗原の特性を変化させることにより自己免疫感受性を制御している可能性を検討したが、AIDが標的細胞において何らかの機能を果たしている明らかな証拠は得られなかった。 平成19年度は、AID欠損マウスにおける自己免疫の増悪が、AID欠損ではなく、他の変異、或は遺伝子の系統差によってもたらされている可能性を検討した。具体的には、BALB/c-AID・PD-1二重欠損マウスから樹立した疾患感受性ラインと疾患抵抗性ラインを遺伝的に解析して比較し、疾患感受性を規定する染色体領域を決定した。さらに当該領域に存在する遺伝子の塩基配列を逐一決定し、比較したところ、AID遺伝子近傍に存在する別の遺伝子に、2bpの欠失変異を同定することに成功した。これにより、今回AID欠損マウスで認められた自己免疫疾患の増悪は、AID欠損そのものではなく、AID近傍遺伝子の異常によるものである可能性が示唆された。
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