ヘリコバクターピロリ感染は胃炎を誘起するが、明確なリンパ組織が存在しない胃において、どのようにして特異的な免疫反応が誘導されるかは不明であった。本研究では、胃における抗原特異的な免疫反応が誘導される機構を明らかにすることを目指した。 T細胞やB細胞を持たないRag2欠損マウスにヘリコバクター(Helicobacter pylori SS1株 )を感染しても炎症は誘導されず、菌も排除されない。ところが、ヘリコバクターを感染させたRag2欠損マウスに野生型のナイーブなT細胞を移植すると、好中球やT細胞の浸潤を伴う強い炎症が誘導され、菌は排除された。一方、Rag2欠損マウスとサイトカインの共通γ鎖(γc)欠損マウスを交配した2重欠損マウスを用いて同様な実験を行ったところ、野生型のナイーブT細胞を移植しても炎症は起こらず、ヘリコバクターが感染した野生型マウスのT細胞を移植して初めて炎症が誘導され、このマウスではヘリコバクター特異的なT細胞が活性化されないことが示された。γc欠損マウスではバイエル板や孤立リンパ小節などの腸管免疫系を構成する腸管関連リンパ組織(Gut-associated lymphoid tissue : GALT)が分化しない。そこで、妊娠中のマウスに抗IL-7受容体抗体を投与することでGALTを欠損したマウスを作成してヘリコバクターを感染したところ、胃炎は誘導されなかった。さらに、同様の方法でGALTを欠損させたRag2欠損マウスにおいてもRag2/γc2重欠損マウスと同様に、ヘリコバクターを感染させた後に野生型のナイーブT細胞を移植しても炎症は起こらず、ヘリコバクターが感染した野生型のマウスのT細胞の移植によって炎症が誘導された。これらの結果から、ヘリコバクター特異的な免疫反応の誘起にはGALTが必要であることが明らかになった。
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