研究概要 |
化学物質取り扱い職域において、同じ量の曝露をうけても感受性が高く中毒を発症しやすい作業者のスクリーニングは、職場での適正配置と就業後の健康管理を行う上で重要な課題である。本研究では、有機溶剤の1つトリクロロエチレン(TCE)使用職場で数百人にひとりが発症する重症型皮膚肝障害に関して、感受性に関連のあるN-アセチル転移酵素2(NAT2)によるTCE代謝物量(S-1,2-ジクロロビニル-N-アセチルシステイン(DVNAC))を、遺伝子改変動物及び患者・曝露作業者で測定した。遺伝子解析を職場作業者に行うことは倫理上の問題により実施困難であるが、尿中代謝物の測定により高感受性者を予測できれば、有害物取扱者の健康管理手法に新しい考え方を導入することにつながる。平成19年度においては、0,1000,2000 ppmのTCEに1日8時間、連日7日間曝露したCYP2E1-nullマウスおよび野生型マウスから採取した尿中のDVNAC濃度をメチル誘導体化法により測定した。しかし定量下限値以下だったため、GST系の代謝を誘導するオルティプラズを経口投与し、2000 ppmのTCEをnullマウスに曝露させたところ、最大11.6 mg/lのDVNACを検出した。患者及び作業者の尿中濃度は検出限界値以下だったため、感度を向上させるために誘導体化法の検討をさらに行う必要があると考えられた。 一方、TCEに曝露させた上記マウスのうち、野生型マウスにおいてのみ肝小葉中心性の炎症がみられ、メチル誘導体化法により測定したトリクロロ酢酸、トリクロロエタノール濃度はnullマウスに比べ有意に高く、CYP2E1がこれらの産生に関わる主要なチトクロムP450であること、この経路の代謝物が肝障害を起こすことが確認された。
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