この研究の目的は、食物中のポリアミン濃度がヒトを含めた哺乳類の寿命や疾患の発症に及ぼす影響を検討することである。平成18年度中は、ポリアミン濃度が異なる3種類の餌をマウス(Jc1/ICR、オス)に投与すると、24週間程度で高ポリアミン餌群のマウスの血中ポリアミン濃度が上昇する事を見いだした。しかし、低および普通濃度ポリアミン餌群のマウスの血中ポリアミン濃度は上昇しなかった。平成19年度は、マウスに3種類のポリアミン濃度の異なった餌を投与し続けたところ、高ポリアミン食餌群のマウスの生後50週から生後80週程度までの期間における生存率が、他の2群と比較して有為に上昇した。餌の成分はマウスの健康に配慮したものであり、脂肪からのエネルギー供給量は23%程度である。マウスの体重と食餌摂取量を比較したところ、3群間において体重の変化に差を認めず、食餌摂取量にも差を認めなかった。これまで食品中の抗酸化物質が寿命延長に寄与するとされてきたが、最近の研究では抗酸化物質の生活習慣病予防効果は否定的なデータが多くなっている。大豆などの豆類、チーズなどの発酵食品、食物繊維などの生活習慣病予防に寄与していると考えられている食品群に共通するポリアミンは、動物実験においてマウスの体重に影響を及ぼす事なく、健康状態を維持し、寿命を延長する事を証明した。この知見は本研究の申請者が最初に見いだしたものであり、特許を申請した。食餌中の脂肪の量が動物の健康に障害を与えない濃度の餌を用いて遺伝子に操作を加えていない動物の寿命を延長できたとうい事は、ヒトにおいても食物中のポリアミンが生活習慣病を予防する可能性を強く示唆する知見であると考えている。今後、食物中のポリアミンによる生活習慣病抑制効果を、さらに検討する必要がある。
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