タバコは日本人の健康障害要因の中でも最も影響が大きく、タバコ規制は今目の最大の公衆衛生的課題と考えられる。それにもかかわらずタバコが広く存在し続けている中、タバコに関しは、なぜタバコが社会に存在し続けているのかのメカニズムを経済学・社会学的アプローチも含め明らかにする研究が今、最も必要である。今年度はそうした方向性の研究で世界の指導的な立場にいるシドニー大学のChapman教授(Tobacco Control誌編集長)と協議し、研究全体の大きな枠組みの調整を行った。具体的な研究としては、昨年度に引き続き、米国におけるタバコ訴訟の結果として公開されたタバコ会社の膨大な内部文書(合意文書)を分析し、まず中国では、British American Tobacco社が2004年末の中国のWTO加盟による貿易自由化に際して強力なロビー活動を米国やEUで展開し、その結果中国のタバコに対する関税を引き下げさせるとと共に、膨大な中国の市場に食い込む契機を得ようとした経過を明らかにし発表した。またタイは国としてはタバコに対する規制力がアジア諸国では比較的強く、タバコの広告も制限されているが、それに対し国際タバコ企業連合が販売ケースにおける広告、スポーツ協賛、密輸による普及など様々な活動を行っている現状を研究協力者とともに調査し、その成果を発表を準備中である。加えて合意文書に含まれない日本たばこ(JT)が、これらの国やロシアで急速に販売を拡張するため欧米のタバコ会社との連携や競争さらに訴訟合戦などを行っている状沢について、US Federal Register(米国連邦行政規則集)、中国タバコネット、JTタイ等の情報を研究協力者を通して継続的に集め、その分析を開始した。さらに、わが国の喫煙率の推移を国民栄養調査とJTのデータに基づき性、年齢、出生コホートおよび年代の観点から分析し予備的な結果を得たが、これについては来年度に公開データだけでなく個別データを入手し解析を行う予定である。
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