受動喫煙時に煙に含まれるナノ粒子(直径1〜100nm)を妊娠期母親が吸った場合、それが胎児に移行し、特定の細胞に蓄積され、出生した子にどのような健康影響を及ぼすかを予想するため、実験動物マウスの系で検討することを目的とした。実験動物喫煙装置が高額のため手作りの曝露装置を設計・試作し、稼動点検を行ったが、煙草煙(副流煙)中のナノ粒子の計測、曝露装置内での濃度調整などの検討に時間を費やしたため、妊娠マウスへの煙草煙曝露によるナノ粒子の仔への移行、その影響については十分な検討結果を得るに至っていない。予備試験的にナノサイズの粒子が含まれるディーゼル排ガス(DE)や、酸化チタンナノ粒子の曝露による影響を検討した。ICR系妊娠マウスに妊娠2日から16日まで1.0mgDEP/m^3のDEを曝露し、出生雄性仔への影響を6週齢時で観察したところ、DE曝露群で雄性生殖系機能に有意な差が認められ、母体が吸入したDEが出生仔の生殖機能に影響を及ぼすことが明らかとなった。また、粒径20〜70nmのナノサイズの酸化チタンを0.05%Tween80を含む生理食塩水に超音波分散させ、ICR系妊娠マウスに皮下投与し出生仔の雄性生殖系への影響を観察したところ、6週齢仔の精子産生能の低下、血清テストステロン濃度の変動が認められたとともに、電子顕微鏡観察により精巣細胞内に酸化チタンの存在を確認した。このようにナノサイズの粒子が母体を介した胎児期曝露によって子に移行し、精巣機能に影響を及ぼす可能性が示されたことから、煙草煙(副流煙)中のナノ粒子の解析および胎児期曝露の影響解明は重要課題であり、実験を続行している。
|