脂肪塞栓は、骨折等の外傷や整形外科的手術等に伴い生じる可能性のある重要な合併症の一つである。その程度が著しい場合には突然死の原因ともなるため法医学領域で扱われることも少なくないが、その診断と重症度判定は難しい。そこで本研究では、脂肪塞栓のより簡便な診断ないしスクリーニング法を開発するために、実際の剖検例の検索と動物実験を開始した。 1.剖検例の分析 本年度は、多発骨折を伴った症例を十分集められなかったため、下記の動物実験を中心に研究を行った。 2.動物実験 本年度は来年度の本実験のための条件設定を中心に研究を行った。 実験動物には12週齢程度のWistar系ラットを用いた。ネンブタール腹腔内投与による麻酔の後、腹腔を開放、下大静脈からオレイン酸を注入した。オレイン酸を原液のまま注入すると、下大静脈内で塞栓が形成されることがわかったため、5〜50%程度までの種々の濃度で生理食塩水と混和した状態で注入した。注入直後〜1時間後に、両肺および、その他の諸臓器を摘出し、定法によりホルマリン固定し、通常のHE染色を行った他、オスミウム酸を用いた再固定の後、パラフィン切片を作製し、光顕にて脂肪塞栓の程度を観察した。 その結果、10%程度の濃度のものが、最も実験的に肺に脂肪塞栓を形成されやすいことが明らかとなった。今後は同条件のもとに種々の量のオレイン酸を注入し、注入量と脂肪塞栓の程度の関係等について調べる予定である。
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