研究概要 |
漢方製剤インチンコウ湯(ICKT)は胆汁うっ滞や黄疽の治療薬に広く使用されている.我々は本剤の生薬成分であるgeniposideとその活性体であるgenipinの急性投与はMrp2(Abcc2)を介在した胆汁酸非依存性の強力な胆汁分泌促進(利胆)作用を発揮することを報告した(Hepatology,2004).今回は臨床的立場より本剤の有用性を検討するために,長期経口投与を行ったラットおよびヒト肝キメラマウスについて,胆汁分泌促進効果と肝輸送蛋白発現の解析を行った.ウイスター系雄性ラットおよびヒト肝キメラマウス(フェニックスバイオ社より供与)に経口ゾンデにてgenipin(100mg/10ml/kg/day)またはICKT(2g/10ml/kg/day)を精製水に溶解あるいは懸濁して1週間投与した.胆汁分泌量,胆汁組成を測定し,肝輸送蛋白の発現については定量性PCR,ウエスタンブロット,免疫染色法にて解析した.ラット:genipinまたはICKTの長期投与ラットでは対照に比して,胆汁流量と還元型グルタチオン,ビリルビン,胆汁酸分泌量は有意に増加した.肝輸送蛋白ではMrp2,Mrp3,Mdr2のmRNAおよび蛋白発現レベルの有意の増加と,Mrp2とMdr2の肝毛細胆管膜における発現が増加していた.これらの変化はICKT投与ラットで顕著であった.Mrp3はICKT投与ラット肝の門脈周囲領域で強い発現が認められた.Bsep発現には変化を認めなかった.ビリルビン負荷試験にて,ICKT投与ラットにおける投与2時間後の血中総ビリルビンは有意に低下していた.キメラマウス:ICKTの長期投与マウスでは対照に比して,胆汁流量の増加を反映し胆嚢腫大が認められた.肝輸送蛋白ではラット同様に,ICKT投与マウスでMRP2およびMDR3の蛋白発現量と肝毛細胆管膜における発現に増加が認められた.またBSEP発現には変化を認めなかった.利胆効果は生薬成分単独投与に比してICKT投与動物において顕著であったことより,genipin(geniposide)以外にも類似の作用を示す生薬成分が含まれているものと考えられた.ICKTの生薬成分であるgenipin(geniposide)の長期投与は,転写・翻訳の増加に加えて,post-transcriptionalメカニズムにてMrp2/MRP2の毛細胆管膜への集約を促進することにより,ラットおよびヒト肝において胆汁酸非依存性に胆汁分泌を促進した.ICKTは胆汁うっ滞性肝胆道疾患の治療薬としての高い有用性が示唆された.
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