研究概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD),アトピー性皮膚炎および関節リウマチなど慢性炎症を基礎とする疾患は増加傾向にあり,現代の大きな社会問題となっている.これら慢性炎症の殆どは難治性であり,非ステロイド性抗炎症薬では十分に奏効せず,一方,グルココルチコイド製剤は長期投与によって重篤な副作用を生じる.グルココルチコイドのように奏効し副作用が少ない高品位な医薬品の開発を行うために,我々は,多くの漢方方財に含まれる甘草の主成分であるグリチルリチン(GL)をそのリード化合物となり得ると考え,研究を進めてきた.本研究により,GLは核内で転写因子NF-kBのp65サブユニットタンパク質のDNA結合を抑制することが判明した.すなわち,GLの作用部位は核内でNF-kBと複合体を形成し得るタンパク質である可能性が高いと考えられた.この仮説を元に,種々の検討を行った結果,GLの結合部位の1つはHMGB1と呼ばれる核内に豊富に存在するタンパク質であり,GLがHMGB1のNF-kBの共役因子としての作用を抑制した可能性が考えられた.しかしながら,マイクロアレイ解析法にて調べたGL処理細胞での遺伝子発現様式の変化は,HMGB1の欠損細胞での解析結果として報告されているものと必ずしも一致せず,HMGB1以外にもGL野作用部位が存在する可能性が推定された.これらの成績は,GLのユニークな薬理作用が複数の結合部位に同時に作用した結果である可能性を示唆しており,新規抗炎症薬の開発原理を考える上で興味深い.
|