本研究は、生体タンパクの細胞内輸送障害について、病因となる遺伝子変異と細胞内輸送障害に関わる分子間の機能連関異常を解明するとともに、その異常を是正するためのペプチドや低分子化合物のスクリーニングシステムを開発し、それに基づく治療薬の開発を目的とする。本年の研究成果は次の通りである。心室性不整脈患者に複合ヘテロ接合で見出した2種類のKCNQ1変異はいずれも細胞内ドメインの構造変化を伴い輸送障害を来すためその分子機構を検討したところ、一方は多量体形成が出来ないため、他方は小胞体から輸送されないために、細胞表面に発現しないことが判明した。また、後者の小胞体内貯留は特定の配列に依存することを明らかにした。この小胞体内貯留配列に結合することが推定されるタンパクはいくつか知られているため、今後pull-down法とWesternblottingで確認する予定である。さらに、myc-tagを付加したKCNQ1を導入した細胞を用いて、細胞表面におけるKCNQ1チャネル発現量を定量的に解析する手法を開発した。この方法で上記2種類の変異KCNQ1チャネルが細胞表面に発現しないことを定量的に測定可能であったため、変異チャネル分子を導入した細胞株を樹立した。一方、昨年度までにBrugada症候群患者に見出したSR関連タンパク変異についての機能解析を実施した。当該タンパクにはスプライシングの違いによりいくつかのアイソフォームが生成されるが、これらは膜貫通領域の違いによって細胞内の分布が異なること、うち1種のアイソフォームはSCN5Aチャネルと共局在することを明らかにした。また、Brugada症候群関連変異の有無によってこれらアイソフォームの細胞内分布に大きな違いはなかった。さらに、遺伝子異常のない心室性不整脈患者において、自己抗体によって細胞表面に発現したチャネルの機能低下が生じる病態を明らかにした。
|