研究概要 |
我々は、「位相差トラッキング法」を用いた頚動脈血管弾性測定の研究によって、この2年間で以下の実績をあげた。 1)本法による頚動脈血管弾性と従来の動脈硬化評価法との比較 2型糖尿病患者242名で検討したところ、頚動脈血管弾性値は頚動脈内中膜肥厚度(IMT)(r=0.291,p<0.01)やプラークの程度(r=0.220,p<0.01)、脈波伝播速度(r=0.345,p<0.01)の測定値と有意な相関を示した。このことから本法が、従来の診断方法で評価される動脈硬化に関して同等のレベルで評価できることを示し、診断方法としての本法の信頼性をあきらかにした。 2)頚動脈血管弾性測定値に寄与する因子の検討 臨床背景や検査値を対象に多変量解析をおこない、年齢、血圧、高脂血症の有無が本法の測定値に影響を及ぼす独立した因子であることをあきらかにした。 3)頚動脈血管弾性測定値と危険因子重積の関係 糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙といった危険因子の重積が、動脈硬化診断法と関連するか検討した。IMTなどの確立された動脈硬化診断法と並んで、本法の測定値も危険因子の重積と有意に相関することをあきらかにした。また、動脈硬化を発症していないと考えられてきた、頚動脈肥厚の認められない群(1.1mm以下)での検討では、IMTなどの危険因子の重積との相関関係は消失し、本法の測定値のみが相関を示した。このことから、本法は従来の測定法では検出できなかった早期の動脈硬化性変化を評価できる可能性を持っていることを示した。 4)「位相差トラッキング法」による降圧剤の血管に及ぼす影響の検討 2型糖尿病患者42名にレニン・アンギオテンシン系阻害薬を6ケ月間投与し、血管に現れる変化を検討した。結果、従来の診断法では投与前後で有意な変化が認められなかったが、本法の測定値のみが薬剤投与6ケ月間の血管性状の改善を評価可能であった。このことから、本法は動脈硬化治療効果を短期間で評価でき、診療現場での効果的な治療薬の選択につながる可能性を示した。
|