本研究の最終目標は、脳の主要な細胞環境分子であるコンドロイチン硫酸(CS)糖鎖に由来するオリゴ糖を利用して、新生児脳障害の治療を行うことである。この目標に向かって、本年度は、以下の成果をあげた。 1.神経幹細胞増殖促進糖鎖の構造-活性相関 酸性糖としてイズロン酸を含むコンドロイチン硫酸B(CS-B)と、高硫酸化CSの一種であるCS-Eは、神経幹細胞の増殖を促進する。CS-Bの増殖促進活性は分子サイズ6K以上で検出される。6KのCS-Bオリゴ糖をDEAEカラムにより分画し、各分画のCS二糖単位含有量と増殖促進活性との関連を調べたところ、その活性は高硫酸化二糖単位であるSBの含有量に依存していた。一方、CS-Eの活性発現に必要な分子サイズは3Kであるが、その活性は、同じく高硫酸化二糖単位であるSEの含有量に相関していた。今後、SBやSE構造を持つCS由来オリゴ糖が、脳に投与された時にも、内在性神経幹細胞の増殖を促進するかを調べたい。 2.低酸素虚血神経変性培養細胞モデルによるCS-Eの神経保護効果 昨年度に確立した培養モデル系を用いて、ラット胎仔海馬由来神経細胞を低酸素(1%)無グルコース下で培養し、神経細胞死を誘発した。このとき、低酸素無グルコース培養を始める24時間前に、CS-Eを添加しておいても、神経細胞死を抑制する効果は認められなかった。CS-Eは、グルタミン酸誘発神経細胞死に対しては抑制効果があったことから、その神経保護活性は、細胞死の種類・原因により異なるものと思われる。
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