研究概要 |
本課題は,統合失調症の「二重衝撃仮説(Two hit hypothesis)」の証明を目的とする。これは遺伝因としての「First hit(第一衝撃)」が統合失調症の脆弱性を形成し,ついで環境因としての「Second hit(第二衝撃)」が加わって統合失調症が発症する,とする仮説である。 我々は,15分間の子宮内胎児仮死を経験したラットが生後12週齢において、(1)メタンフェタミン投与後の移所行動量亢進(p=0.001),(2)海馬のBrdU陽性細胞数減少(p=0.001),(3)海馬のCA1-CA3領域における顆粒細胞数減少(p=0.02)を対照群に比べて有意に認めることを見出した。そこで第一衝撃としてのGAD67遺伝子異常をもつマウス(GAD67遺伝子改変マウス(GAD67(+/-))に,第二衝撃としての子宮内胎児仮死を経験させ,このマウスの行動と脳組織病理を調べる実験を試みた。 当初は驚愕反射の先行刺激抑制(Prepulse Inhibition : PPI)やメタンフェタミン応答に大きな変化がみられたが,その後,子宮内仮死を経験することによってマウスがほとんど死んでしまったため,実験系に再現性がないと判断された。その結果,ラットの仮死モデルを参考にした現在の実験プロトコールはマウスには不適とみなし,子宮内胎児仮死について実験条件の再検討(手術環境の見直しや仮死時間の短縮など)をおこなっている。 GAD67遺伝子改変マウス自体についても再解析を行なったところ,NMDA拮抗薬(MK-801)による移所行動量の有意な減少が確認された。しかし行動量の日内変動,ドパミン作動薬(メタンフェタミン)による移所行動量,PPI,社会的行動(Social Interaction)には依然として変化は見られなかった。
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