精神疾患において報告されているエピジェネティクス異常およびゲノム不安定性は、レトロポゾンの患者特異的な動態を強く示唆するものである。そこで、われわれは「統合失調症や気分障害の遺伝的基盤は、メチル化の緩みによって、転移因子が遺伝子の構造および機能変化を起こしたことにある」とのエピジェネティクスとゲノム不安定性を融合した仮説を提唱した。本研究では、一卵性双生児統合失調症不一致例を対象に、遺伝子領域で多く見られるヒトレトロポゾンAluの患者特異的な新規挿入領域の同定およびそのメチル化解析を行い、統合失調症との関連について検討した。本年度は、前年度までの研究で二次的構造変異およびメチル化異常が同定された患者特異的Alu挿入変異が見られた2つの遺伝子領域について、さらにNested PCR法による構造解析およびメチル化解析を進め、さらにTaqMan法による変異の再確認も行った。その結果、患者ゲノムにおいて確認された重複領域において、新たに患者・対象ゲノムにおける欠失がそれぞれ同定され、一卵性双生児ゲノムの同一領域での複雑な構造変異の全体像が明らかとなった。以上のことから、本遺伝子領域は統合失調症の候補遺伝子が存在すると期待される。さらに、本遺伝子領域におけるAluの新規挿入変異およびその近傍の二次的変異は、Aluの動態が一卵性双生児内におけるゲノム間差異を引き起こし、病因としての役割を担った可能性を強く示唆するものであった。今後、本ストラテジーを、トリオ解析や他のレトロポゾンの動態解析にも応用していくことにより、疾患原因遺伝子が明確になるものと期待される。
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