近い将来、超高齢化社会を迎えるわが国において、加齢性に増加する脳血管障害に対する治療法の確立は急務である。脳梗塞のモデル動物を用いた研究において、げっ歯類とヒトを含む霊長類では、脳梗塞巣に対する反応が異なるため、ヒトへの応用を考える場合、霊長類でのモデル動物の作成、さらには、その霊長類脳梗塞モデルを用いたトランスレーショナルリサーチが必須である。そこで、カニクイザル脳梗塞モデルを用いて、脳梗塞発症後の発現たんぱく質の変動解析を網羅的に行うことにより、脳梗塞関連たんぱく質を探索し、臨床応用へのターゲットとなりうる候補たんぱく質を同定することを本研究の目的とした。 本年度は、LC-MSを用いたショットガン法により、カニクイザルサンプルを用いて、たんぱく質の発現プロファイルを検討した。カニクイザル脳から灰白質と白質を分取後、常法に従い、ショットガン法によるプロテオーム解析を行った結果、灰白質、白質でそれぞれ、約7000のペプチドを検出し、そのうち、灰白質では約900、白質では約740のペプチドを同定した。最終的に同定できたたんぱく質数は、灰白質で約340、白質で約290であり、そのうち、約270のたんぱく質は共通に発現していた。また、検出されたペプチドに対し発現量の相対定量比較を行ったところ、共通に発現が確認できたペプチドのうち約半数は、灰白質と白質で、発現量が2倍以上異なっていることがわかった。今後は、実際にラクナ梗塞を作成し、梗塞モデルカニクイザルからのサンプルを用いて、灰白質および白質における梗塞周辺部とその対照側のプロテオーム解析により、脳梗塞関連候補たんぱく質の同定を行う予定である。
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