近い将来、超高齢化社会を迎えるわが国において、加齢性に増加する脳血管障害に対する治療法の確立は急務である。脳梗塞のモデル動物を用いた研究において、げっ歯類とヒトを含む霊長類では、脳梗塞巣に対する反応が異なるため、ヒトへの応用を考える場合、霊長類でのモデル動物の作成、さらには、その霊長類脳梗塞モデルを用いたトランスレーショナルリサーチが必須である。そこで、カニクイザル脳梗塞モデルを用いて、脳梗塞発症後の発現たんぱく質の変動解析を網羅的に行うことにより、脳梗塞関連たんぱく質を探索し、臨床応用へのターゲットとなりうる候補たんぱく質を同定することを本研究の目的とした。 昨年度の結果より、健常カニクイザルの脳の白質と灰白質では、発現たんぱく質のプロファイルが異なることが明らかとなったため、本年度は、梗塞モデルカニクイザルを用い、白質および灰白質における梗塞周辺部とその対照側部位をそれぞれ分取し、プロテオーム解析を行った。実際には、光照射により過酸化ラジカルを発生する特殊な色素を利用してカニクイザル脳梗塞モデルを作成し、常法に従い、LC-MSを用いたショットガン法によるプロテオーム解析を行った。その結果、それぞれのサンプルより、6000以上のペプチドを検出、約300のたんぱく質を同定した。検出されたペプチドの脳梗塞周辺部と対照側との相対定馳量比較では、それぞれの部位に特徴的な発現パターンがみられ、各部位特異的に発現が確認できたたんぱく質も存在した。 今後、例数を増やし、検出されたペプチドに対する発現量の相対定量比較や、発現たんぱく質リストの結果を統計的に解析することにより、脳梗塞関連タンパク質を検索する予定である。
|