研究概要 |
喪失した脳機能の回復を目的として、外来性神経幹細胞の移植等が試みられているが、損傷脳においてはアストロサイト、ミクログリアなど炎症性細胞の存在による移植神経幹細胞の生存阻害や、生着し分化した後の神経細胞のアポトーシスなどにより機能回復は限定的である。p38 MAP kinase (p38 MAPK)は神経膠細胞の炎症反応及び分化・成熟した神経細胞のアポトーシス制御を行っていることが報告されていることから、p38 MAPK阻害剤は損傷脳の機能回復に有効であると推測されてきたが、詳細については不明であった。そこで本年度は、(1)免疫組織化学的手法による胎生期脳及び培養神経幹細胞におけるp38 MAPKの発現解析、(2)p38 MAPK特異的阻害剤を培養神経幹細胞に添加し細胞生存機構の解析を行った。 結果(1)胎生期マウス大脳皮質より1% NP-40可溶性画分を調製し、抗p38 MAPK抗体によるウェスタンブロット解析を行ったところp38 MAPKは胎生10日から胎生14日マウス脳に多く発現していた。マウス脳スライス標本を作製し抗p38 MAPK抗体による免疫組織染色を行ったところ、p38 MAPK陽性細胞の多くはネスチン陽性神経幹細胞であった。さらに胎生期マウス脳から分離・培養した神経幹細胞において免疫染色によってP38 MAPKの発現を確認した。(2)胎生10日又は14日マウス大脳皮質より神経幹細胞を調製し、培地中にp38MAPK特異的化学合成阻害剤(SB202190,SB203580)添加し7日間培養した。培養後細胞内ATP濃度測定法による生存細胞数及び自己複製能を持つ神経幹細胞に特徴的なニューロスフェア数計測を行った。結果、p38 MAPK特異的阻害剤添加により、生存神経幹細胞数の著明な増加が認められ、p38 MAPKにより神経幹細胞の生存が制御できる可能性が示唆された。現在、細胞膜透過性を有するHIVウィルスのTAT配列融合p38 MAPK dominant negativeタンパク質を用いた神経幹細胞の生存制御の詳細な解析を続けている。
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