生体が発生し、かつその生命機能を維持するためには種々の様式の膜融合(あるいは細胞融合)が必要である。このような生理的膜融合のうち受精や筋形成における細胞融合あるいは細胞内物質輸送における膜融合の分子機構にはまだ不明な部分も多いが、これらを媒介する蛋白群が同定されつつあり、さらに複雑な分子間相互作用を伴っていることが確実となった。生理的膜融合は細胞同士あるいは細胞内小器官同士で認められるが、いずれの場合も接着分子およびそのリガンドなどを含む複数の蛋白の分子間相互作用が必要であることが示唆されており、その解析は困難を極めている。これまでに我々は、ウイルス誘導細胞融合の制御機構を研究して来た。ウイルス感染においては、ウイルスの侵入や細胞傷害機序として細胞融合は重要な役割を担っている。我々の研究グループは、ウイルス誘導細胞融合を制御している機能分子、Fusion Regulatory protein-1(FRP-1)とFRP-2を世界に先駆けて明らかにした。さらに、ウイルスによる細胞融合機構と生理的細胞融合(破骨細胞形成等)機構が共通している事を見出した。中でも、血液単核細胞の中には単球に4F2/CD98/FRP-1分子が選択的に発現しており、非常に興味深い事に、血液単球に抗FRP-1抗体を作用させると24時間以内に多核巨細胞が形成される事を見出した。 4F2hc/CD98/FRP-1分子のノックアウトマウスを樹立したが、このノックアウトマウスは胎児の成長が停止し、胚性致死(生前死)を起こした。この事より、4F2hc/CD98/FRP-1分子は生存に不可欠であるか、また胎児期に重要な働きを担っていると考えられる。最近、CD98/FRP-1のコンディショナル・ノックアウトマウスの樹立に成功したため、この系を用い、CD98/FRP-1媒介破骨細胞形成の詳細な解析を行う予定である。 本研究はFRP-1のリガンドが破骨細胞形成因子と何らかの関係があるとの仮説を手がかりに、破骨細胞形成の分子機構を明らかにする事を目的に行って来たが、骨粗鬆症の病態解明の興味深い側面を解明する基盤を築いたと考えている。更に、これらが骨粗鬆症の予防や治療に関しても有益な情報を得ることができると考えている。
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