本研究全体の構想は、精子運動能を亢進させる分子を同定して男性不妊治療の成績向上に貢献することである。特に本研究課題では、精子に発現している新規着床分子かつ精巣腫瘍の転移能に影響を与える膜タンパク質Trophinin(トロフィニン)を介した精子運動能増強効果を再確認するとともに運動能改善を目的とした新規合成ペプチドの同定とその分子メカニズムを追求する。 本年度の研究成果は以下のとおりである。 (1) 健常成人および男性不妊症の精巣生検で採取したパラフィン包埋切片を用い、抗トロフィニンル抗体、抗タスティン抗体、抗ビスティン抗体にて、免疫組織学染色を行い、精子のトロフィニン、タスティン、ビスティンの発現を検討した。トロフィニン、タステイン、ビスティンともに、ヒト精子において発現が認められた。 (2)精液検査で採取した精子に対してフローサイトメーターによる解析を行ってFACSも併用し、トロフィニン、タスティン、ビスティンの発現を定量的に評価することを試みた。上記の免疫組織化学的検索では、3者ともに発現が認められたが、フローサイトメーターによる定量的評価は困難であった (3) 抗トロフィニンモノクローナル抗体を用いたEGFR Tyrosin phosphorylationの実験におおいて、ヒト精子では、トロフィニンを介したシグナル伝達が存在することが明らかになった。
|