研究概要 |
妊娠時は非妊娠時に比し酸化ストレスが増大していることが報告されており,妊娠自体が酸化ストレスの生じている状態であると考えられている。一方,これら酸化ストレスが生体に作用すると防御機転が働き,種々の酸化物質に対し抗酸化物質が産生され,これら抗酸化物質の抗酸化シグナルを介し,アポトーシスが抑制されることも知られているが,抗酸化系機構の妊娠時における役割は不明である。そこで,今回我々は抗酸化系分子の一つであるthioredoxin(TRX)に着目し,TRXを全身に過剰発現するマウス(TRX-tg)を用いて妊娠時の抗酸化系機構の意義を検討した。 まず非妊娠TRX-tgマウスを用いて糖質代謝を検討した。糖負荷試験の結果,TRXtgは,野生型(WT)に比し耐糖能が良好であることが判明し,インリン負荷試験の結果,TRX-tgはインスリン感受性が良好であることが示された。さらに膵臓におけるβ細胞の占める割合やβ細胞におけるインスリン含有量を検討したところ,両群のマウスにおいて差は認められなかった。すなわちTRX-tgでは,インスリン感受性が良好であることが示唆され,抗酸化系機構が糖代謝とりわけインスリン感受性に影響を与える可能性を示すものである。 次にTRX-tgマウスを妊娠させたところ,耐糖能はWT妊娠群に比し,耐糖能は低下し,インスリン抵抗性が高くなった。この結果は,妊娠時のマウスの代謝動態に抗酸化システムが関与した結果生じたものと考えられ,その機序としてTRXとグルココルチコイド受容体のシグナルトークの可能性があり,現在解析を進めているところである。本機序を行うことにより,臨床応用への可能性があり,興味深いところである。
|