以前我々は子宮内膜症性嚢胞の破裂により血中D-dimerが急激かつ異常な高値を示した症例を経験したが、D-dimerの検出は凝固反応とその後の線溶反応の存在を示しており、血液凝固融解分解産物が様々な)cytokineやprostaglandinの局所産生を促進して炎症を誘導し、さらにはfibrin分解産物が生物活性を有し動脈硬化症の発生に関わっていることを考え合わせると、血小板や血液凝固融解分解産物が子宮内膜症の病進展に重要な働きをする可能性が考えられた。そこでそれを抑制することが子宮内膜症の保存的治療法の開発につながるとの発想に至り本研究を計画した。 実験は婦人科良性手術時に患者の同意のもとに採取した子宮内膜組織より子宮内膜上皮細胞および間質細胞を先に報告した方法で分離し、血小板および子宮内膜症性嚢胞内容液が子宮内膜上皮細胞と間質細胞の増殖能と接着能に及ぼす効果をWST-1assay法を用いて、またMatrigel invasion assayに改良を加えた子宮内膜間質細胞の浸潤モデルを用いて検討した。 その結果、活性化した血小板が細胞遊走因子を分泌してヒト子宮内膜間質細胞の浸潤を促進すること、さらにその作用をインテグリン阻害抗体が抑制すること、また血小板の遊走促進作用にはMMP分泌促進が関与している可能性が示され、血小板が子宮内膜症の病巣進展に重要な働きをするという本研究の仮説を支持する知見が得られた。これらの成果から今後血小板の活性阻害などが子宮内膜症病変の進展に対する新しい治療法となる可能性が新たに示された。
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