研究概要 |
進行頭頚部癌の5年生存率は50%以下に過ぎないが,その理由として,2/3は局所再発で,1/3は遠隔転移で死亡することが挙げられる。遠隔転移の早期発見を目的に,当該研究では,末梢血液中の微量癌細胞の同定を試みた。昨年までの研究で,実験レベルでは10の6乗分の1個の癌細胞の同定が可能な実験系を構築したが,患者血液中に,検出可能値以上の癌細胞が含まれている結果は得られなかった。数ある癌特異的分子のうちCK-19の発現を解析したが,その理由は頭頚部癌に最も特異的に発現していると考えられたからである。今後は,他の特異的分子を標的として,頭頚部癌細胞のみに絞らず,頻度の多い癌組織を効率よく血液中から検出するシステムを構築する予定である。具体的には,CEA,SCC,CK-14,CK-20,PVA,EpCAM,E48を準備中である。 近年,局所制御困難な進行中咽頭癌において,高頻度(50-65%)に悪性ヒトパピローマウイルスが発現していると報告されている。健康ヒト対象でのウイルス発現は,4%未満とする大規模調査の報告があり,ウイルス発癌が頭頚部癌の主な原因と考えられる。咽喉頭は,呼吸や摂食で絶えず空気中の微生物に暴露されている器官であることを鑑みると,納得のゆく説である。当該研究では,局所再発をきたし,制御不能であった中咽頭癌の病理組織標本から,retrospectiveにヒトパピローマウイルスDNAの検出を試みた。患者標本の薄切パラフィン切片から,DNAを抽出し,PCR法でウイルスDNAを増幅した。パラフィン固定標本でDNAが断片化したためか,ウイルスDNAの検出頻度は既報告より低かった。今後は,制限酵素解析や,特異的プライマーを検討して16型,18型,31型,33型,35型,52型,58型の悪性ウイルスの型決定と,良性ウイルスである6型と11型との共発現について調べる予定である。どの型の組み合わせが,最も臨床で悪性度が高いと考えられるか,臨床病理所見と局所再発の有無と併せて決定する。
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