アスタキサンチン(AST)はカロテノイドの1種であり、数々の薬理作用が報告されている。本年度は健常人がASTを摂取したときの眼底血流に及ぼす影響を検討するために、対照群を設け、二重盲検法による臨床試験を実施した。スクリーニング時に測定した眼底血流量を基準に無作為にAST12mg摂取群(AST群)とAST0mg摂取群(プラセボ群)の2群にわけ、4週間摂取した。摂取前、摂取後2週目および4週目に眼底血流量を視神経乳頭部、黄斑部および眼底後極部の3部位について測定した。眼底血流量はレーザースペックルフローグラフィ(LSFG)眼底血流測定装置(TRC-50X、ソフトケア社)を用いて、右眼の測定を行った。その結果、摂取前と比較して、AST群の視神経乳頭部の血流量は摂取後2、4週目で増加し、特に摂取後2週目で有意な増加がみられた(摂取前;22.7±7.4 NB値、摂取後2週目;23.9±7.9 NB値、p<0.05)。黄斑部の血流量も増加しており、特に摂取後4週目で有意な増加がみられた(摂取前;18.2±5.2 NB値、摂取後4週目;21.1±6.6 NB値、p<0.05、)。次に、眼底後極部の血流量についても同様に増加し、摂取前と比較して、摂取後2、4週目ともに有意差がみられた(摂取前;14.5±4.0 NB値、摂取後2週目;16.1±3.8 NB値、摂取後4週目;16.6±4.2 NB値、p<0.05)。プラセボ群の視神経乳頭部、黄斑部および眼底後極部の血流量への影響はみられなかった。また、両群間の比較では摂取後2週目、4週目ともに黄斑部および眼底後極部の血流量はAXT群の方が高値を示したが、有意差はみられなかった。以上のことから、視神経乳頭部、黄斑部および眼底後極部といった眼底部位特異的な血流改善はみられないものの、網脈絡膜全般の血流の増加傾向がみられた。したがって、ASTは加齢黄斑変性、糖尿病網膜症などの眼底疾患だけではなく、緑内障における視神経乳頭血流改善など各種の眼底疾患に対し、臨床応用出来る可能性が示唆された。
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