対象と方法 ヒト常染色体優性網膜色素変性のモデルとしてヘテロ接合体のretinal degeneration slow(ヘテロrds)マウスを作成し、その病態について詳しく検討した。ヘテロrdsマウスにカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを200日腹腔内に連日投与した。200日間のうち20日ごとに網膜電図(ERG)を測定し、ニルバジピン非投与群とのERGの波形の差を検討した。形態的な特徴を探るため、200日間投与した後の組織所見をヘマトキシリン・エオジン染色にて光学顕微鏡的に観察するとともに、細胞内の所見を電子顕微鏡にて観察した。ニルバジピン投与による網膜内での遺伝子発現の変化を探るため、投与群と非投与群の網膜を摘出し、そのホモジネート内に含まれるメッセンジャーRNAの差異をマイクロアレイ法(イルミナ社)を用いて網羅的に解析した。さらにその結果を確認するために、定量的RT-PCR法により転写レベルを、さらにウエスタンブロット法により翻訳レベルでの発現状況を検討した。 結果 ヘテロrdsマウスに200日間ニルバジピンを腹腔内に投与したところ、ERGのa波およびb波ともに非投与群に比べて振幅が大きかった。形態的観察では、光学顕微鏡的には両者の間には差がなかったが、電子顕微鏡による観察では視細胞外節の構造が投与群では非投与群に比べ形態が保たれていた個体が多く、非投与群では外節膜の小胞形成や配列の乱れをきたしていたものが多かった。遺伝子発現に注目すると、マイクロアレイによる解析では、投与群ではタンパク合成系に関与するタンパク質および各種神経栄養因子や成長因子の遺伝子の発現が多く、非投与群では、タンパク分解型系やアポトーシスに関与するタンパク質の遺伝子の発現が多い傾向があった。中でもCNTF(ciliary neurotrophic factor)の発現がニルバジピン投与により4倍に発現が亢進し、こればRT-PCRやウエスタンブロット法により確認された。 考察 ニルバジピン投与によりヘテロrdsマウスの網膜変性の進行は遅延する。その分子機構としてはニルバジピン投与による内因性のCNTFの発現が亢進するためであることが考えられた。
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