研究概要 |
【目的】色素性母斑の発生,成長,運命については不明な点が多い.本研究の目的は、色素細胞の良性、悪性の典型である母斑細胞性母斑(ほくろ)と悪性黒色腫(ほくろの癌)の細胞膜のリン脂質および組織内脂肪酸組成を明らかにすることである。今回われわれは,色素性母斑(複合型)組織内脂肪酸組成を解析した. 【方法】形成外科の手術時に得られた色素性母斑(複合型)をサンプルとするために、神戸大学倫理委員会の承諾を得た。サンプルを酵素処理後,表皮(上基底細胞層,基底細胞層)成分,真皮成分にわけ,マルチビーズショッカー多検体細胞破砕機(安井器械,日本)にて組織を破砕後,Folch抽出法で脂肪酸成分を取り出し,メチルエステル化した組織内脂肪酸をガスクロマトグラフィー(島津社製,GC-14B)で解析した.正常表皮と正常真皮については過去のわれわれのデータをコントロールとして,代表的な23種類を比較検討した. 【結果】表皮成分では,単不飽和脂肪酸の比率がコントロールに比して高く,中でも16:1(パルミトオレイン酸)と18:1(オレイン酸)が顕著であった.また必須脂肪酸の比率が低かった.真皮成分では逆に16:1の比率が有意に低い傾向にあった。 【考察】脂肪酸の組成は,細胞によって異なり、かつ環境や分化によっても自在に変動する細胞特異性を持つといわれている。色素性母斑(混合型)では,表皮,真皮とも正常と異なる組成であった.表皮成分と真皮成分の正常コントロールとの比較から,単不飽和脂肪酸(特に16:1)とE-cadherinなどの基底膜成分との因果関係や母斑細胞の脂肪変性への関与が示唆される.次年度では境界型や真皮型、さらに悪性黒色腫(ほくろの癌)についても解析をおこなう予定である。
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