研究概要 |
ラット遊離環流肺標本において、左主気管支をクリップして2.5cmH20のCPAPに保つ一方、右肺は15ml/kgの一回換気量、40/minの換気回数、ZEEPで1時間片側過換気を行なうことで右側肺のみに透過性亢進型肺水腫をきたした(肺胞洗浄液中の蛋白濃度、湿乾重量比の上昇)。また、過換気肺のサイトカインmRNA(TNF-α, IL-1β, IL6, IL10: RT-PCRにより測定)、還流液中のTNF-αが上昇を示した。このような変化を来した過換気肺が対側肺に何らかの影響をおよぼすか否かを明らかにするために、1時間の過換気中に還流液を再還流するRecirculation群と、還流液を1回のみで再還流しない(single path) Non-Recirculation: Non-R群とで比較した(還流液は5%CO2を加えた空気でバブリングしておきCPAP肺の生理的環境を維持した)。Recirculation群、Non-R群で過換気肺の肺永腫の程度、mRNAの発現に差はなかったが、対側CPAP肺では、Recirculation群vs Non-R群でBAL液中蛋白濃度、湿乾重量比、サイトカインmRNAの発現がRecirculation群で増加しており、過換気肺は液性因子を産生、還流液中に放出することにより対側健常肺を傷害することが立証できた。われわれのモデルは神経系、血球(特に白血球)系の関与が除外されており、過換気肺が液性因子の産生放出を介して遠隔臓器傷害(同一個体から得られた対側健常肺が遠隔臓器の代表)を起こす可能性を明確に立証したものであり、多臓器不全発症の機序解明、薬物の治療・予防効果の検証に貢献するものである。ARDSの死因が多臓器障害であることの病態生理の解明の一助となることが期待される。
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