研究課題/領域番号 |
18659534
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
辻野 佳雄 島根大学, 医学部, 講師 (90263532)
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研究分担者 |
竹下 治男 島根大学, 医学部, 教授 (90292599)
森田 栄伸 島根大学, 医学部, 教授 (90182237)
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キーワード | 経皮吸収 / 接触皮膚炎 / 化学熱傷 / 化合物 / 成分分析 / GC・MS / 皮膚試料 |
研究概要 |
化学物質に経皮接触(曝露)した場合、その構造および化学的性質により、透過性や動態に如何なる影響が認められるかを明らかにする目的で研究を行っている。皮膚に対して刺激作用があり、芳香族や脂肪族化合物を数百種類も含有する灯油やガソリンで動物実験を行ってきたところ、血液中に芳香族が選択的に吸収され、皮膚中には脂肪族化合物が保持されることが明らかになった。 今年度は消毒薬として汎用されている塩化ベンザルコニウムについて、皮膚創部への影響や消毒時間の影響を調べるためにラットを用いた動物実験を行った。この化合物は非極性部分である脂肪族の側鎖と、極性部分である芳香族とが含まれており、脂肪族の部分が皮膚に保持されやすく、極性部分は真皮など軟部組織へ保持されやすく、従って創部を消毒する際の皮膚毒性が懸念される。最近の議論として消毒薬を使用することによって期待される殺菌作用よりも、正常細胞へのダメージが大きい可能性がある、ということで外科系を中心に消毒薬使用の是非について論議がなされている。今年はその論議も踏まえて、消毒薬の経皮吸収について、実際に皮膚に消毒薬を使用することにより、どれくらいの消毒薬が経皮吸収されるのか、薬物動態学的側面から研究を行った。動物実験では、市販の消毒薬の濃度(10%)を希釈せず、そのまま用いた。理由は現実的に使用方法を読まず原液の濃度で使用して救急を受診される患者さんが多いこと、医療現場でも希釈せずそのまま使用して問題になることが少なからずあること、実験的に顕著な結果を導きやすいことから行った。その結果、創部皮膚への塩化ベンザルコニウムの濃度は、正常皮膚へ使用した時に比較して有意に高く、また消毒薬への接触時間が長いほど、全身循環への吸収が有意に増加し、その濃度は全身的な影響が懸念されるほどの濃度に達していた。つまり創部への消毒薬の使用はその皮膚部位への蓄積が著しく、消毒薬そのものの局所部位への炎症作用と全身的吸収による循環系への影響を考慮すると、創部への消毒薬の使用は使用するにしても最低限の量の使用が望ましいことが薬物動態学的に明らかになった。 現在、消毒薬以外に化学熱傷や接触皮膚炎をきたす化学物質、あるいは引き起こさない軟膏製剤成分も含めて、その化学構造と経皮吸収との関係について、薬物動態学的に引き続き研究中である。
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