生体の細胞・組織における動的空間パターンの発現の仕組みとその制御機講を究明する上で、ラット切歯成熟期エナメル芽細胞層は優れた実験モデルである。ラットの成熟期エナメル芽細胞層に発現する動的な周期パターンが、反応拡散系に基づく自己組織化によるものか否かを検証するために、以下の実験を行なった。 1.ラット切歯のエナメル器構成細胞におけるギャップ結合のマッピング 細胞の興奮による電気的進行波の伝達の場であるギャップ結合を免疫組織化学的に染め出し、その配列に何らかの方向性(極性)があるか否かを検証し、ギャップ結合の発達とエナメル芽細胞の周期的形態変化の間の相関の有無を検討した。実験には通法に従って固定、脱灰したラットの下顎から切歯のエナメル質成熟期に相当するエナメル器をシート状に摘出し、そのまま、あるいは凍結切片にして抗コネクシン43抗体で免疫染色した。エナメル芽細胞層にはパッチ状を呈するギャップ結合が多数染め出されたが、シート状のエナメル器の全載標本の免疫染色では染色ムラがおおきく、正確な空間配置を確認するには至らなかった。二年次の課題である。 2.ミニ浸透圧ポンプによるGap Junction Blockerの局所投与実験 ラット下顎骨に作製した開窓部に微細なカテーテルを挿入し、背部皮下に埋入したミニ浸透圧ポンプ(Alzet)により下顎切歯エナメル器の成熟期初期に向けて塩酸チオリダジンの10mM溶液を持続投与(1.0μ1/hr)を行なった。この方法はin vivoの実験系でありながら投与薬剤の効果を局所に留めることが可能で、反対側の下顎切歯を対象群として評価できる利点がある。投与開始44時間後、Gap junction blocker投与側で、エナメル芽細胞の形態変化の周期の遅延を示唆すする結果が得られた。 今後、投与薬剤の種類と濃度を変えて実験を継続する。
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