研究概要 |
本研究では,代表研究者らが開発した天然多糖誘導体であるリン酸プルランについて,(1)リン酸化プルランの生体硬組織やインプラント表面に対する吸着能をナノスケールで分析するとともに,(2)骨再生に関与する細胞でその効果を検討することにより,成長因子や抗菌物質を徐放する硬組織用ドラッグデリバリーシステムとしての有用性を評価した。 1)リン酸化プルランの吸着能評価 (1)表面分析法による検討 リン酸化プルランにてアパタイトおよびチタン表面を処理し,X線光電子分光装置(XPSまたはESCA)により分析した。その結果,酸性であるリン酸化プルラン水溶液のみでなく,中性あるいは弱アルカリ性に調整したリン酸化プルランナトリウム水溶液でも,アパタイトやチタンに対しリン酸化プルランが強固に吸着することを示唆された。 (2)水晶発振子マイクロバランス法(QCM)による検討 生体分子間相互作用定量測定装置・QCM-D300のアパタイトセンサーならびにチタンセンサーを用いてリン酸化プルラン吸着特性をリアルタイムで測定した。その結果,アパタイトやチタンにリン酸化プルランが強固に吸着することが確認された。 2)細胞実験 チタンプレートを1.0wt%リン酸化プルラン溶液で処理し,コントロール条件では,蒸留水に処理した。洗浄後,マウス骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1細胞をそれぞれのチタンプレート上で培養し,細胞の形態,接着,増殖に及ぼすリン酸化プルランの影響を検討した。さらに,MC3T3-E1細胞のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)の発現に及ぼすリン酸化プルラン処理の影響も検討した。その結果,細胞播種後1,2および3日後において,リン酸化プルラン処理を行った方が有意に高い増殖反応を示し,その反応はMAPKのERKの系を介していることが示唆された。
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