本研究の最終目的は、集団歯科健診時において、天然歯に充填された審美修復材料の有無とその形態を、見落とし無く、正確に判定できる機器の開発である。本年度は、そのための基礎的なデータの蓄積を目的として、美修復材料およびヒト抜去歯の蛍光スペクトルの特性を調べ、口腔内を想定した条件下で、歯と審美修復材料の蛍光の差を最も敏感に測定できる条件(励起波長と測定波長)を決定することを試みた。研究は当初以下のように計画した。 1)ヒト抜去歯に充填用光重合型コンポジットレジンを充填する。 2)分光蛍光光度計を用いて、励起波長を様々に変化させた光を試料に照射し、そこから発生する蛍光を測定する。そして、各種審美修復材料とヒト抜去歯の蛍光強度の差が最も大きく現われる励起波長と蛍光波長を決定する。 3)決定された測定条件を参考に、以下に示す歯種や修復材料によって識別能がどのように変化するのか検討し、どの歯種、どの修復材料の場合にも共通して使用できる条件を決定する。 歯種別の検討:乳前歯・乳犬歯・乳臼歯および永久歯の前歯・犬歯・小臼歯・大臼歯 修復材料別の検討:レジン系、グラスアイオノマー系、ポーセレン系修復材料 まずはその手始めとして、レジン系充填材料と歯、それぞれ単独に乾燥下にて光学特性を測定した。その結果、歯はどの充填材料と比べても430nm以上の励起波長で強い蛍光(500nm測定波長)を発した。また、個々の歯について測定値にばらつきがあるのか検討したところ、大きな差は見られなかった。特定の励起波長で、測定波長を連続的に変化させたところ、500nm以上の測定波長では歯とレジン系充填材料の蛍光強度の差が強く現れた。以上のことから、励起波長は430nm以上、測定波長は500nm以上の条件の場合、歯とレジン系充填材料を識別するのに有利な条件であると思われる。
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