本研究は、平成18〜20年度の3年度計画で遂行中の研究であり、初年度である本年度は、プレテスト的に、薬物依存症者の家族会につながってから比較的日の浅い、「薬物依存症、者である息子」を持つ2人の母親にそれぞれ3〜4回の面接(1回の面接は約2時間程度)を実施しだ。この面接記録をもとにして、薬物依存症者を家族に持つ人々の健康問題を明らかにするための観点を見いだした(以下5点)。以下の観点は今後の本格的な調査において、活かしていくようにしたい。 (1)薬物依存症者本人のことばかりを考えたり、思い悩んだりしている結果、対人関係が狭まったり、生活上の楽しみが縮小したりしていることはないか。 *何をしていても、考えるのは薬物依存症者本人のことばかりであるという時期が、一極端に遷延化するのは、健康上問題があると考えられる。 (2)(1)のような状況・状態において、支える力となる存在を得られているか。特に、同じく薬物依存症著を家族に持つ家族会等の人々との間に支え合う関係が築けているか。 *家族に薬物依存症者がいるごとに後ろめたさを感じることなくつきあえる家族会等の仲間との交流は、(1)に示した傾向の改善に有効と考えられる。 (3)薬物依存症者本人の刑務所入所や施設入所に伴って、薬物依存症者本人との物理的な距離ができたことにより、薬物依存症者本人以外の家族構成員との問に、それまでにはなかった(あるいはあってもあまり意識化されなかった)葛藤が生じていないか。 *薬物依存症者本人が身近にいた時は、その行動に振り回されることで気づかずにいた他の家族構成員との葛藤が、新たな健康問題をもたらすこともありえる。 (4)薬物依存症者本人の刑務所入所や施設入所に伴って、薬物依存症者本人との物理的な距離ができたことから生じた精神的な余裕を、自分の今までの生き方を振り返ったり、自分の今後の生き方を模索したりすることに活かしているか。 *薬物依存症者本人と物理的に離れることは、本人の依存症からの回復にとってはもちろん、家族の共依存症からの回復にとっても有効と考えられる。 (5)薬物依存症者本人の動向に一喜一憂してしまうことはないか。 *回復を喜ぶことは決して悪いことではないが、薬物依存症者本人の回復過程には様々なことがあり、「喜」と「憂」を両極端に揺れ動く傾向は、好ましいとはいえない。
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