本研究は、薬物依存症者を家族に持つ人々の心身の健康問題の自覚を糸口として、依存症者を家族に持つ個人が、より健康によりその人らしく生きることができること(共依存からの回復過程の促進を前提とする)を目指したものであり、研究者自身による研究対象者への継続的な面接の実施により、対象者の変化と成長の過程を浮きぼりにしようとするものである。対象者の選定にあたっては、薬物依存症者のリハビリ施設ダルクと連携をとっている家族会の役員らに、当該家族会に参加しはじめてからの年月が比較的浅い家族を紹介して頂いている。なお、研究に関する説明や協力意思の有無の確認は家族会役員に最初にやって頂き、初回面接の際に再度、研究者から説明し、承諾書を得るという形をとっている。また、アクションリサーチの理念に基づき、対象者の変化と成長の過程を客観視するに留まらず、それに関与することを重視している。具体的には、今年度は、家族会の場において学習会の講師を引き受けたり、薬物問題に関連するボランティア活動等に対象者とともに参加したりした。学習会で講師を担当した際には、前年度の研究過程から確認できた内容を踏まえて、「自他の区別」すなわち、自分の感情や思考と他者(:薬物依存症者である家族)の感情や思考との区別をつけることに焦点を当てた内容としてきた。今年度面接を実施した事例は実数で8名であり、うち2名は昨年度からの継続で他6名(夫婦3組)は今年度からの実施である。今年度より開始した対象者のなかには、依存症に対する理解が不十分で、面接時に「結婚すればよくなるのではないか」といった考えが前面にでているものもいた。前年度から継続中の2名については、依存症者本人とは物理的にも心理的にも離れたところで自分独自の楽しみや生きがいを見出し、充実した生活を送っている。
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